精神医学 科目終了試験(5)地域精神医療について
精神医学 科目終了試験(5)地域精神医療について
<ポイント>
地域精神科医療の展開について概要を理解する。
<まとめ>
日本の地域性新医療
日本の近代精神科医療は100年以上の歴史があるが、75年前は私宅監置(いわゆる座敷牢)で、実質的には患者を治療するよりも隔離しておくにとどまっている状態であった。
1950年、精神衛生法の制定により私宅監置が廃止される。
1960年代、民間の精神科病院が全国各地に解説される。ただしその中身に問題があるとしたのがWHOのクラーク博士だった。クラーク勧告では下記の点が指摘された。
この流れに加え、薬物療法が発展してきたことにより、日本の精神科医療は地域ケアへと流れていくことになる。また、1984年のうつのみや病因事件など、精神病院で相次いでスキャンダルが発覚したことが国際的に大きく批判されたことも法改正を後押しした。政府は精神衛生法を37年ぶりに改正し、精神保健法と改めた。また、主たる目的として「国民が精神障害者の社会復帰を支援することである」と明記した。社会復帰施設も建設され始める。その後1995年、福祉の視点も盛り込む形で「精神保健および精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」と改称された。
海外の地域精神科医療
地域精神科医療の源流は18世紀フランスのピネルである。ピネルは精神障害者を鎖から開放し、人間として扱った。ただし有効な治療法がなかった時代、医療と呼ぶような動向はなかった。
真の地域精神科医療への扉が開かれたのは、アメリカのピアーズが「わが魂にあうまで」を出版してからである。同書で州立精神科病院の非人間的な処遇が明らかにされてからは精神障害者の権利に対する公権の責任論がもちあがり、1955年にMental Study Actが成立した。その他イギリスやフランスでも、こうした改革が進められていく。
具体的な地域移行
1993〜2003 「障害者対策に関する新長期計画」等に基づく施策の推進により進展がはかられてきた。
1993年 障害者基本法が成立。精神障害者も知的障害者・身体障害者と同等に、障害者として位置づけられた。
社会復帰施設の設置・運営の中心になったのは民間の精神科病院である。これらの病院は日本精神科病院協会を組織し、精神科医療を主導。社会復帰施設、精神障害者グループホーム、入所型施設などを運営している。
1970年代より試みられていた精神科デイケアは、1990年代に急速に普及。病院だけでなくクリニックでも増加。デイケア治療は精神科専門病院で最も盛んであり、クリニックでも増えてきている。ただし公立の施設で少ないことも特徴である。
地域リハビリテーション実践の場は精神障害者小規模作業所である。第一号は1976年。以降30年以上にわたって増え続け、精神障害者が地域で過ごして仕事を持つことを支援している。ただしこれらは精神保健福祉法によらない無認可の小規模作業所であり、精神障害者が国内に10万人以上いるという推計からすると少な過ぎるとする指摘もある。1999年、法改正が行われて無認可小規模作業所を法定の小規模通所授産施設n変更できるようになったが、数はまだまだ少ない。
ただ、社会復帰施策が法定されて20年以上経ってもなお、社会復帰施設の整備状況はまだ十分とは言えない。理由は下記が考えられる。
- 補助金制度の仕組み。法人も負担を強いられる構造にある。
- 精神科病院の問題。収容主義に慣れすぎてしまっていて、こうした施設の必要性を認識できていない。
- 国民の中にある心の障壁。精神障害者を自分たちの生活圏から排除しようというスティグマが根強くある。
差別に対する取り組みは、精神病の改称にも見ることができる。「精神分裂病」は「統合失調症」となり、「痴呆症」は「認知症」となった。
日本でドラスティックに精神科領域が地域ケアに変換していかない理由(仙波恒雄による)
- 地域社会の未成熟
総論賛成・各論反対の社会性(偏見)、精神科病院の孤立性支援の欠如 - 入居型施設の著しい不足と利用のしづらさ
現在の利用年限・対象者の条件、他の障害者福祉に比べ希薄な職員配置と低い運営費補助 - 病床転換を図る経済的インセンティブの欠如
精神科医療費がきわめて低く責任ある運営が困難、外国施設なみの価額の保障がない、社会復帰施設運営者が自立的に可能な補助費体系の欠落、施設運営に病院運営資金を導入せざるをえないこと - 地域転換政策の欠如
民間病院が8割を担う精神科医療体制である現状に鑑み、病床削減を勧めるにあたり残存病床の診療報酬を底上げして原資とする保障の必要性。
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