労働法 科目終了試験(6)労働災害の保障について
<ポイント>
使用者は労働者の安全を守る責務がある。しかしそれでも労働事故は起こる。そうした場合、労働者への保障はどういうことになるだろうか。歴史的考察を含め、制度的な枠組みを理解する。
●労働災害の補償の仕組み
当初は個別使用者に直接補償責任を課す直接補償制度をとっていた。
その後、労災は産業社会に必然的な減少であって社会的公平の観点から労災の救済責任は企業総体が負担すべきとし、国家が鑑賞する社会保険に吸収・統合する社会保険制度となった。
現代の労災補償制度の特徴は、労働者の生存権という観点から補償内容の生活保障的側面が重視→社会保障制度へ接近・融合
●日本の場合
1947年に制定された労基法と労働者災害補償保険法(労災保険法)により確立。
●労基法による災害補償制度
労災発生についての個別使用者の加害制に着目。使用者の過失の有無を問わず、実損害と関わりのない定型・定率の補償責任を課す直接補償制度。
使用者に現実的な支払い能力がない場合は実効性が担保されない。
●労災保険法
労基法の災害補償制度の限界を補い、簡易・迅速にかつ確実な補償を確保することを目的に制定。今日の労災補償制度の中心はこれ。
労災保険法は政府を保険者とし、保険加入者である事業主が保険料を納付する義務を負う。保険事故が発生すると被災労働者(死亡の場合は遺族)に給付請求権が発生する。
財源は事業主負担による保険料。
●労災保険法の特別加入
特別加入制度……労働者ではない、特定の事業主や一人親方にも保険の人的適用対象を拡大、任意の加入を認めた制度。労災保険法の社会保障法化のシンボルともされる。
●労災保険法の保険給付
業務上の傷病に支給される。業務上と認められるためには、その傷病が業務に起因して発生したものであること(業務起因性)が必要。そのための第一時的な判断基準になるのが、業務遂行性。
災害と傷病などの因果関係は主に医学的判断などにゆだねられるので、実際上の業務上認定の中心は、業務と災害の因果関係の立証となる。
●業務上の災害になるケース・ならないケース
- 休憩中の災害……施設の不備に起因しないかぎり業務起因制は否定される
- 出張中……包括的に使用者の支配下にあると判定されて業務遂行制が認められ、積極的な私的行為が原因でないかぎり、業務起因制が認められる。
- 運動会や社内旅行などの社外行事への参加は、使用者の特命・強制でなければ業務上と認定されない。
- 天変地異によるものは、施設の瑕疵や作業環境が原因でない限り業務上とは認定されない。
●業務上の疾病
- 災害性疾病……間に災害が介在するので発症を特定するのは容易
- 職業制疾病……緩慢な経過であり発症要因が基礎疾病や自然的加齢・生活要因なども影響してくるので、業務起因制を立証するのはきわめて困難 →労基法は一般条項を定めている
●過労死
稼働は労働者の心身に悪影響を及ぼしさまざまな疾病の原因となり、死二位たることもある。
現在の認定基準は下記の通り
- 1週間以内の短期の過重業務の他に発症前6ヶ月間の長期間の過重業務による疲労の蓄積も考慮する
- 疲労蓄積の最重要要因である労働時間の実態に着目しり
- 労働時間の他の業務の過重制評価要因として、不規則勤務、交代制・深夜勤務、作業環境、精神的近著を考慮する
- 比較対象労働者として、基礎疾病を有するものの日常業務を支障なく行える同僚労働者
2002年度以降、過労死の業務上認定は大きく前進し、近年は業務上認定件数が300件前後に急増、業務上認定率も上昇、厚生労働省は「過重労働による健康障害防止のための統合政策」を策定。時間外労働の削減、年休取得の促進、労働者の健康管理の徹底を求めている。
●過労自殺
一般的には、故意による自殺には保険給付は行われない。ただし旧労働省は1999年、業務上の精神障害によって正常の認識が著しく阻害された状況での自殺は給付制限の「故意」には該当しないとした。